エロス・イン・BLEACH!②――剣卯戦はなぜ「エロい」のか?
はじめに
ザエルアポロ戦のマユリ&ネムの描写がエロいという話はしたが、いやもしかするとそれ以上にBLEACH史上最もセクシュアルなのは、剣卯戦だろう。
映像化され話題沸騰のこの戦い、なぜエロく、そしてなぜエロスが必要なのだろうか。
ファリック・シンボルとジェンダーロール
BLEACHにおける刀とは、死神のみが帯刀を許され、斬魄刀の大きさが霊圧の大きさに比例する、という大変にファリックな(男根的な)モチーフである。
刀や銃をファリックなパワーの表象として読む/描くというのは、古今東西の文化に浸透した方法論であろう。BLEACHもその例に漏れず、むしろそのやり方を積極的に採用している。
戦闘特化部隊の十一番隊は、(斬魄刀の化身的存在のやちるは例外として)男性が占めている。しかも、「十一番隊では鬼道系の斬魄刀では馬鹿にされ、直接攻撃系の斬魄刀でなければ認められない」との弓親の言葉が示すように、刀を刀として使い「斬る」ことが第一義なのである。
一方、治療部隊である四番隊は、隊長・副隊長共に女性であることから、護挺十三隊には明確なジェンダー分業が存在している。
卍解できない更木剣八の斬魄刀
隊長になるには、卍解が必須条件となっているにも関わらず、更木剣八は卍解ができない。いわば更木剣八は、隊長(死神としての成熟の最終段階)へのイニシエーションが済んでいないまま、あまりの潜在的強さゆえに隊長になってしまったのである。
「未熟ではあるが潜在能力の異常な高さゆえに特権性を手に入れる」という設定は、ジャンプ漫画の定石である(一護もこの好例だ)。一護は主人公であるがゆえ、段階的に斬月との修行を積み、レベルアップしていくが、剣八は最終章まで、「卍解をもたない唯一の隊長」のままである。
千年血戦編において、更木剣八のレベルアップがソウル・ソサイエティの必須事項とされたことで、初代剣八、すなわち卯ノ花烈/八千流に「斬術の手ほどき」を受けることになる。
剣卯戦は、卯ノ花隊長が更木剣八に出会ったときの胸の古傷を衝かれることで幕を閉じる。戦いの最中、幾度も卯ノ花は更木剣八を刺し殺しているのだが、卯ノ花は回道(治癒能力)を駆使することで、この戦いは更木剣八が己が一度死んだことにも気づかぬうちに繰り返される。
この繰り返しの末、更木剣八は自身の斬魄刀に名を尋ね、のちに卍解に至る。=(ハイパーマスキュリンなシンボルである)斬魄刀の使い手としてのイニシエーションを終えるのである。
要するに、この「手ほどき」とは、卯ノ花烈/八千流による更木剣八の筆下ろしなんですよ。そりゃあエロいわけだ。
「私を悦ばせた男」
剣卯戦が更木剣八の筆下ろしは、卯ノ花烈/八千流の最期が胸元の傷を貫通する描写で終わる。しかも卯ノ花を貫通するカットが二種類も描かれることからも、ここはかなり性器挿入を意識されているだろう。
では、卯ノ花烈/八千流は、デンジにとってのマキマ的な「母であり最初の女」的なテンプレのエロスにすぎないのだろうか?
筆者(ぴんくぱんだちゃん)は、卯ノ花隊長には母性とエロスの混同とは多少異なる特徴づけがなされているように思う。
孤児である更木剣八が、戦いの最中何度も死ぬのを卯ノ花隊長の回道によって治癒される、すなわち「生まれ変わる」という筋書きは、まさに卯ノ花烈/八千流と更木剣八の疑似母子関係とも読み取ることができる。
しかし、卯ノ花隊長が亡くなるときのモノローグ、「私を悦ばせた男よ」に込められる、刀の貫通と併せても、明らかに性的な含みをもつエクスタシーの瞬間である。
更木剣八との関係は、師弟関係とか、疑似親子である以上に官能性を帯びる。
しかも、更木剣八のイニシエーション/筆おろしの踏み台として卯ノ花隊長がいるのではなく、彼女の「うずいてしかたなかった」傷を貫通させるよう卯ノ花隊長自身が仕向けることで、更木剣八のためであったはずの戦いが、いつのまにか卯ノ花隊長の性的なクライマックスを迎えることが到達点になっている。
卯ノ花隊長は、ややもすれば「男性主要キャラの成長の踏み台的母性エロス」の型にはまってしまうところを、彼女の性的な到達感をこの戦いのクライマックスとして据えることで、彼女の不在は逆説的に強烈である。
ユーハバッハ戦に臨むソウル・ソサイエティの戦略として、(特記戦力に匹敵するであろう)卯ノ花隊長が死ななければ特記戦力の更木剣八の力は解放されないという点からして、彼女の強烈な不在という逆説はとんでもないインパクトだ。総力戦である以上、実際的に戦力を考慮するとき、卯ノ花隊長は生き残るべきだったのだから。
一見、自らの死をもって更木剣八を解放し、ソウル・ソサイエティの勝利に自己犠牲的に貢献したかに見える卯ノ花烈/八千流は、実はどこまでもエゴイスティックに自身の欲望を追求したのかもしれない。
地獄に落ちた「死剣」卯ノ花烈は、今後どのような姿を見せてくれるのだろうか。
楽しみでならない。