T. U. G どこまでも転がる丸い月
T.U.Gにだけは順位なんかつけられない。そんな矛盾した思いでラップスタアを見ていた。そんな時出された新曲。
全部終わったらなる一番星
まだ磨かないと今はただの石
環境が擦った身体 垢が落ち
グループサイファーでも、何度も上を見て指を指していたT.U.G。だから、彼のリリックに「石」だけではなく、「星」が出てきてハッとした。あの時「転がるチャンス」と言っていたのは、道端の石(「今はただの石」)だけじゃなくて、銀河系に転がる光る石(星)を指しているのかと。そして、「磨か」れた石が、「擦った身体」が、T.U.Gという一番星だったんだと(「全部終わったらなる一番星」)、そんな気がしたからだ。
悔しくてたまらない夜に
浮かぶ顔 月明かり
深く埋めた悩みのタネに
あげ過ぎて水たまり
T.U.Gが歌う「夜」は「悔しくてたまらない」ような、そんな暗闇だ。それでも、暗闇でなければ星は光らない。この夜には、この悔しさには、星を輝かせる力がある。だからここではさらに、光の世界ではなく、闇の中の光という矛盾を抱え込むT.U.Gのリリックが、「月明かり」を歌っている。そして「月明かり」が「水たまり」と韻を踏んでいるのがすごい。重なるのは、音(あかり/たまり)だけじゃない。水たまりに浮かんだT.U.Gの顔がそのまま、月になってるのが本当にすごい。悔しいくてたまらないT.U.Gの顔を、足元の水たまりが、光り輝く月へと反射する。音と同時に、天と地までもが重なってる。足元の石が、天上の月へと反転する。あの時「転がるチャンス」と歌ってていたT.U.Gが転がるのは、もはや平面な道だけじゃない。地面から宇宙へと、この世界そのものを縦へと反転していくものすごい力が、T.U.Gのリリックにはある。
忙しく過ごし減った溜め息
アイツの分も背負った都会行き
まだ終わってないんだよ正直
テクもコネもカネも無いけどこんな曲
聞いて欲しいんだT.U.G.
道の端で意思を持ったこの心
丈夫に持つ自分自身
「息」「都会行き」「正直」が「T.U.G(ティー・ユー・ジー)」と韻を踏む。もちろん、「自分自身」もそうだ。この箇所は、ある意味T.U.GがT.U.Gと口に出して、自分が自分と重なっている(まさに「自分自身」)ようにも聞こえる。そういえば、この曲には『ラップスタア』で歌われた「“貰う側から渡す側に”」もセルフサンプリングされている。あの水たまりに写ったもう一人の自分のように、この曲にはもう一人のT.U.Gが映し出されている。道の端で「意志/石」を持った、この心を丈夫に持った、そんなもう一人のT.U.G(自分自身)がここにいる。
重ねる日々
積み重ねる日々
自分自身。自分という言葉が二度繰り返されるようなこの言葉が、「日々」という言葉で再び繰り返される。そこに、「積み重ねる」という言葉が添えられる。「重ねる日々」と言って、続けて「積み重ねる日々」と歌う。繰り返しの中で顔をだす「積み」という言葉は「月」とかけられているのかもしれない。
意志を重ねて、石/星を重ねて、月を重ねる。『ラップスタア』で、T.U.Gの石/意志は転がっていた(「転がるチャンス」)。Chanceの英語的語源には、「下降する」という意味があるから、T.U.Gの「転がる」という言葉選びはピッタリだった。でも、この曲のT.U.Gは次のレベルにいる。転がる道端の石が、水たまりの顔が、夜空の星に、月に、姿を変えているからだ。T.U.Gのチャンスは道を転がるどころか、下降するどころか、空を突き抜けて宇宙まで上昇している。ラップスタア。まさに、上へ上へと、星まで、月まで、T.U.Gの日々が積み重なっている。あの日のT.U.Gが上へと歌っていたように、今は私たちがT.U.Gを見上げている。私たちが歩く道端の、水たまりに写る私たち自身の悔しい顔を通して、T.U.Gという星を、月を、見上げている。
この曲のYoutubeページを見ると、T.U.Gを大好きでたまらない人たちが幾つもコメントを残している。もらうから渡す側に、そんなハードな道を、T.U.Gは本当に体現したみたいだ。でも、これからもっと色んなことを体現していくはず。そんなT.U.Gを、心から応援している。