みんなのBento

種類豊富なおかずが入った、楽しいお弁当。筆者たちが各々のレシピで調理しています。多くの人に食べてもらえるようなお弁当を作るため、日々研究中。

【考察:漫画・ドラマ『二月の勝者』】「合格に必要なのは、父親の経済力と母親の狂気」?――「二月」に勝った先にあるもの①

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f:id:pinkpandachann:20211018052359p:plain筆者:ぴんくぱんだちゃん

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www.ntv.co.jp

「合格に必要なのは、父親の経済力と母親の狂気」

ああ。その通り。あとは生徒本人の少しばかりの適性かな。父親の経済力と生徒の適性が必要条件で、母親の狂気が十分条件。これが中学受験だ。

 

※シングルマザー・シングルファーザー家庭での中学受験のケースもたくさんある。筆者の家庭も一時期片親だったので、その独自性にもいずれ触れるが、あくまでも今回の記事は、「父親」、「母親」、「子供」という三者の関係に焦点を当てる。

 

漫画『二月の勝者』が、2021年10月17日から、ドラマ化された。第一話放送直後から、上記の台詞――「合格に必要なのは、父親の経済力と母親の狂気」――がネット上で大きく取り上げられている。かくいう筆者(ぴんくぱんだちゃん)も、東京・神奈川エリアの中学受験経験者であり、中受専門の家庭教師としても3年ほどアルバイトの経験がある。この漫画のドラマ化と、世間の反応をとても楽しみにしていたクチである。

 

本記事は、シリーズ形式で漫画『二月の勝者』の考察・分析を行うが、第一回は、まずこの作品を代表する言葉、――「合格に必要なのは、父親の経済力と母親の狂気」――の真意を探る。ただし筆者は、あくまでも東京・神奈川エリアの中学受験の受験&指導の経験しかないので、その他のエリアの雰囲気については判断しかねる。アラサー世代の筆者が経験した首都圏エリアの中学受験に限定した、独断と偏見に基づく中学受験観を以下に披露させていただく。

 

中学受験の話をするには、書き手自身の中学受験スペックを披露しなきゃ誰も読まないのは知っている。開始時期は御三家受験生にしては普通orやや遅め、成績は急激に伸びることも落ちることもなくずっと55~60あたりを彷徨う面白味のない生徒だった。

 

入塾時期:小3春期講習(小2の年度終わりから)

第一志望:女子御三家(不合格:多分受験者の中で下位30パーセントくらい。)

第二志望:女子御三家受験者が2月2日に受ける典型的な学校(合格)

第三志望以下:第二志望に2日に受かったので受験していない。3日にも第二志望の学校に出願していた。第五志望だけ2月1日の午後受験で受かっていた。

 

・・・「成功」とも「失敗」とも言えない受験である。指導する立場の時にこのデータを見たら「普通に成功した子」と思うだろうが、本人は「失敗した」という思いを消すのに時間がかかった。ちなみに両親は「成功」と思っていると思う。詳細は次回「中学受験生は永遠の中学受験オタク!」で触れたい。

 

「合格に必要なのは、父親の経済力と母親の狂気」?

父親の経済力というのは、2つの意味で重要だ。まずは通塾させるのに十分な経済力。メインの塾のほかに、家庭教師やサブ塾、習い事なんかも並行したりする。つまり、中学受験時代を持ちこたえられる経済力だ。そして2つ目は、あまり言及されないけれど、中高6年間の出費に耐えられる経済的な体力である。個人的にはこちらのほうが長い目で見れば重要だと思う。

 

一つ目の中学受験期の経済力は、この漫画で有名な「課金」すればするほど子供の成績は伸びるのか、という問いにもあるように、時には子供の学力と正比例してしまう。そりゃあ、授業や講習を塾の組んだプログラム通りに履修できるほうが効率よく成績が良くなるに決まっている。この話はドラマ・漫画の後の回でも詳しく扱われるので割愛。

 

二つ目の、中高6年間に耐えられる経済力。こっちが重要。

まず、年間授業料・校風・学校の場所・偏差値などを調べて受験校を絞るわけだが、そもそも6年間私立に通うのでギリギリの収入だと、選べる学校の幅がここでもう狭くなる。さらに、「ギリギリ6年間通える」と「ゆったり十分な額のお小遣いをあげて、学校に寄付金も収めながら通える」では大違いだ。前者の状態で入学してしまうと、校風にもよるだろうが、生徒本人も母親も、かなり肩身の狭い6年を送ることもある。しかし、学費が安くて尚且つ進学率・校風も魅力的な学校なんて鬼のような偏差値である。ギリギリで通えばいいじゃないか?何を言ってるんだ。コテコテの女子校出身者の筆者が断言するが、なかなか苦しい6年間になるだろう。吹奏楽部とか、新品の楽器買わされるんだからな。部活も好きに選べないんだったら、その学校はすでにその子には合っていない

 

母親の狂気

これは必須。指導する側の立場になった年に一層痛感した。「受験の天王山」、つまり小6の夏休み、「勉強ばっかりでかわいそうになっちゃう、すこし休ませたほうがいいのかしら」と私に相談してきたお母様がいらっしゃった。マトモである。真っ当な判断だ。だけど私は(おそらく彼女の塾の先生も)直感した「あ、この子落ちるだろうな。お母さん普通に優しいもん」。案の定落ちた。結局、かなり偏差値を落として設定した保険の第3志望に行った。

 

黒木先生も言っているように、中学受験で第一志望に受かることなんてほとんどない。高めに設定していればなおのこと。C, D判定でも受かるやつなんてモンスターだ。中学受験は大学受験とは違う。だからこそ、第2志望からが現実的な第1志望と考えて、子供を𠮟咤激励できなければ第5志望まであっという間に落ち続けてしまう。

 

中学受験で成功した(第2志望までに受かるとか、満足できている)人に聞くと、母親はみんな狂っている。親子の関係は一度は壊れている。修復できない人もいる。でも受かってはいる。

 

筆者の母親もだいぶイカれていた。受験校を絞り切れていない時期の週末は毎週学校説明会に参加していたし、毎日弁当も作ってくれていた。それだけですでに「狂って」いなきゃできない気がするが、くわえて毎晩怒鳴りあいの大喧嘩。算数のプリントをやったとかやっていないとか。

 

「狂気」は1月31日の夜に頂点に達した。母親は動揺しすぎて包丁で指を大怪我した。彼女の取れかけた中指は今でもよく覚えている。明日は5時起きで受験本番!という晩、救急外来に走っていった母親を見て、私が思ったのは「一人で受験行けるわー良かったー」。完全に母娘の信頼関係は壊れていた。結局、当たり前といえば当たり前だが、受験に付き添ってくれた母親に何故か私はブチ切れて熱い紅茶を床に投げつけた。うん、母娘共々「狂って」いたのだ丸4年間、「なんで思うように勉強しないの?」と思い続けた母親と「こんなことやってられっかよ!!!!」と思いながらも机に向かい続けた娘は限界を迎えたのである。

 

筆者の場合1月31日に衝突したのは愚かとしか言いようがないが、これくらいの衝突、受かった子は皆経験している。でも、これが「正しい」と筆者は断言できない。筆者のような厳しめの中学受験ではなく、もっとゆったりとした中学受験(スタートも遅くて受かる見込みのある学校しか受験しないタイプのやつ)をした小学校の同級生が、お母さんとずっと仲が良さそうに見えたのを羨ましく思っていたのも事実だからだ。いまでも羨ましく思う。

 

本人の「ほんのちょびっとの適性」

これは、両親の性質にくわえて、本人に必要と筆者が思うもの。やっぱり適性ってあるんじゃないかな。なにをどうやっても、低学年からスタートしていても、ずーっと一番下のクラスにいる子って一定数いるのだ。

 

そういう子を、家庭教師としてサポートしていたことがある。「厳しめ」受験から「のんびり」受験に切り替えることを塾から勧められ、若干の方向転換をしていた。彼女の場合、「彼女の努力でカバーできる範囲」を確実に達成して、ギリギリ定員割れはしていないかな、という学校に受かっていった。これがある種いちばん「幸せ」な受験であるとも感じた。「厳しめ」、つまり一般的な中学受験は、あまりに特殊で、高度な学力・精神力・忍耐力を要する。親の努力・教師の努力にくわえて、「机に座っていられる」とかカンニングしない」とか、これが最低限――しかしどの生徒にでも備わっている能力ではないもの――必須であるように思う。この見極めをして、難しい子には中学受験を「強いない」こと、これも一つの中学受験の形である。

 

 

 

次回は「中学受験生は永遠の中学受験オタク!」

漫画・ドラマで中学受験に再び触れただけで、こんなに熱く語ってしまうのはなぜ??中学受験経験者ならわかる「あるある」に迫ります。