【考察】Hollow Knightのジェンダー観【めちゃオモロいのに誰も喋ってなくない???】
by あした巨鳥
誰か喋ってたらすいません。
ホロウナイトはいいぞ。
めちゃ大好きだ。
物凄く大好きだ。
私はホロウナイトがめちゃくちゃ大好きな解釈厨なので、
ホロウナイトの世界のジェンダー観すごくない?という話をしたいと思います。
聞いてください。
レズビアンのキャラクターがいるぜ!とかそんなキャラ単位の属性の話では終わらない。
ハロウネストの住人や現人神(現虫神?)達のジェンダー観が非常に面白い。
読んでくれ。やってくれ。ハマってくれ。
面白いから!!!
ホロウナイトのストーリーおさらい
読んで面白かったらプレイしてくれとか言った割に序盤から重大ネタバレしまくりますが
操作とかボスバトルだけでびっくりするくらい面白いから許して。
(ちょっとだけ解釈・語弊あり)
知性ある虫たちの国『ハロウネスト』には、原因不明のゾンビウィルスが蔓延っていました。
その正体は夢を司り夢に生きる神ラディアンス。夢への信仰を忘れた虫たちに、夢を通じてウィルスをばらまき、その身体を操ることで怒りをぶつけていました。
これを止めようとしたのが現人神にしてハロウネストの王ウィルム。攻防の最中、ウィルムが「意思なき意思の中に夢を閉じ込めれば、夢は現実に作用しない」というコンセプトで作ったのが作品タイトルでもある「ホロウナイト」です。
ホロウナイトは、ウィルムと白いレディの血を引く王家の実子にして、実験によって闇を混ぜて作られた意思なき存在です。こうした存在は幾千もあります(多分虫なので卵がいっぱいある)(あと多分”実験”も精力的にやっていた)。でもホロウナイトが”唯一”の成功作。
しかしとある理由で、実は不完全だったホロウナイト。
ウィルムが世を去り、文明が廃れていく最中、ホロウナイトからも夢という疫病が漏れ出し始めました。
その身体がついに夢を閉じ込めておけなくなってきた頃、同時期に作られた主人公ーー忘れられた第二の成功作(?)ーーがハロウネストの地に足を踏み入れます。
ででん。
プレイヤーの操作の下、広大なハロウネストを探索する主人公に提示される可能性は大きく二つ。
先代のホロウナイトに代わって意思なき夢を引き継ぐか、
それとも先代の夢の世界に入り込み、夢の神そのものを討つかーー。
……
まあそんなような話です。Switchで1,500円なので買ってやってください(破格すぎんか?)。
面白いので。
PC版もプレステ版もあるのでやってください。
ノーマルクリアはさほど難しすぎはしません。
お願いだからやってください。
ホロウナイトはいいぞ。
やってください。
因みにコンプは鬼難。誰だよボスラッシュ考えた奴。
やってください(泣)。
やってから読んでくれてもいいのよ。
ホロウナイトのジェンダー世界
さて
夢をめぐる物語なのに制作者は結構wokeで、ジェンダーに関して非常に気を付けてるなっていうのが見てて分かります。明らかに意識して作られている。
手っ取り早くそれを象徴するかのように、先ず主人公が「ジェンダーレス」です。
性別が男と女の二択で選べる主人公は色んなゲームで見るようになりました。
キャラメイクで性器まで(!!)選べて、性別はプレイヤー任せというのも見た。
ジェンダー”不明”主人公は同じくインディーズのUNDERTALEの主人公が記憶に新しいですね。
でも「ジェンダーレス」、つまり「ジェンダー無し」とはっきり規定された主人公はなかなか見ないです。
「2種類から選べる」とか、「どっちだか分からない」だとか「両性具有」とかいうのとまた別だからね、「性別がない」。これだけでも表象としては割と意義あるかも。
でもそれだけではない。
例えば個性豊かなNPCたち。
同性愛カップルの存在
頼もしいNPC女虫たち、女王虫たちの存在
戦う女虫、育てる男虫の存在
異種間恋愛の存在
ドラァグ・クィーンっぽいキャラの存在
それだけでもない。
制作陣(Team Cherry)は、時には虫の生態を参考にしながら、新しい、興味深いジェンダー世界を構築している。と思う。
虫を参考にしているとは言いましたが、キャラクターのデザインを見て分かる通り、特に虫に”忠実”というわけではないんです(コーニファーって何虫なの…)。
だから、『元ネタの虫はメスの方が強いからこのキャラはメスで自然なんだ』とか言って、単なる現実世界のトレスだと思って考えるのを止めるのは非常にもったいない。
実際よく見る考察だけど。
「元ネタがジェンダーレスの虫を探し出してからだろその話は」と。私は言いたい。
「元ネタがこれ!」で片づけないで、
ちゃんと「オリジナルでユニークな世界観」として見てみて欲しい!
我々のジェンダー観に挑戦するなぞかけが、いっぱい詰まってるんだから!!
1.固定され得ぬ時間
やりづらい!ハロウネスト史
ハロウネストの虫たちは種族によって大分寿命が違います。異種族で共生するコミュニティもあります。で異種間恋愛が結構盛んですよね(白いレディ×ウィルム、フンコロ騎士×イズマ、ゼ=メール×造反者の娘、ブレッタ→ゾード…)。
つまりハロウネストの虫たちには人生のステージ(皆同じような年齢で卒業して働いて恋愛して結婚して子供出来て退職して云々)に規定される、共有される時間が無いものと思われます。
寿命30年と寿命200年で共生したり、恋に落ちたりしたらそりゃ色々ズレるわよねっていう。
例えば
プレイ開始後最初に出会うNPC”老いたムシ”は、「虫力車(スタグ)の駅は生まれた時から廃れていた」のようなことを言います。つまり”老いたムシ”は文明が衰退し始めて以降に誕生しました。
しかしそのずっと前に作られた主人公は赤ちゃんみたいな見た目をしていますし、ほぼ同時期(多分)に生まれた異母妹であるホーネットも未だ少女(多分)のいでたち。
主人公が起こした最後のスタグも老いていますが、現役の頃は存命時のウィルムやレディの姿も見たと言います。
最後のスタグと現役時代が同じ、ハロウネストの五英雄に繋げましょうか。
ウィルムやレディの近衛騎士であったフンコロ騎士はまだまだ若く現役。ですが、同期のゼ=メールは、どうやら老いぼれて死にかかっています。ゼ=メールの恋人だった娘(若くして亡くなった)の父である”造反者の長”はバキバキの現役マッチョとしてプレイヤーを相当苦しめます。娘の恋人が老いぼれていても、父はバリバリ現役。造反した本元のカマキリ族の仲間達も、無論バキバキの現役で主人公に挑みます。
凄まじい長生きさんもいます。
モス族の生き残り・先見者(シーア)に関してはもう多分あの人結構文明の初期からいたっぽいし。グリムなんかウィルムの友達だったみたいなセリフあるけど凄いセクシーで若いっぽいし、若いのに「限界」で死んでしまうし。王国のはずれのお尻、ことバードーンは一体いつからあそこに…ウィルムの前世(?)を知ってるっぽいし…。
立ち返って”老いたムシ”、わざわざ年寄り感が名前でまで示されていますが、あいつ多分作中1,2を争う若さです。これたぶん意図的だよね
これらの寿命違いガチャつきにより発生する時間の規定し辛さは、現にホロウナイト考察コミュニティの中で「ハロウネストの歴史が編纂し辛い」という考察上の障害物として立ち現れています。
つまりこの世界、「大体寿命は80年」とかの基準が一切ないために
いつ文明が誕生したのかとか
いつおかしくなったのかとか
誰がいつからいて、今人生のどこなのかとか
事件と事件の間にどれだけ空白があったのかとか
具体的な時間の感覚を得ることが出来ないのです。
お陰で制作側としてはいくらでも後だしで話や出来事を付け足せるため、非常に上手いやり方だと思います。やったぞ設定が未知数。続編:Silksongが楽しみすぎる。
クィア・テンポラリティ
という概念があります。
異性愛(無論人間同士)のマジョリティの送る人生の大イベント(恋愛、就職、結婚、出産など)を軸に規範が作られている※という前提に基づき、そういうルールに抗う時間の流れの構築のことをこう呼びます。
(英語論文:http://sfonline.barnard.edu/ps/printjha.htm)
※大体何歳ごろで結婚するから、「●●にもなってまだ独身だなんて」とかで信用を落とす。とか、同性愛差別などで就学・就職できず二浪して「皆より未熟」と思われる(自分もそう思っちゃってしんどい!)。とか、独身官僚は出世し辛い。とか、そういうのが実際問題ありますよね、って言う話。
ハロウネストは異種間恋愛もあり、寿命も違って皆で共生する世界。当然、自然とそういうゴチャゴチャが無い世界になるんですね。
ホロウナイトの世界は、クィア・テンポラリティの世界だ。
2.白いレディ×ウィルム
受け攻め間違ってないんだなこれが。レディが掘った方です。
…凄そう
ホロウナイトを作る”実験”では白いレディとウィルムが子作りをしました。その失敗作たち(幾千か幾万ほどの死骸やゾンビ)がステージ古代の穴(アビス)の足場にすらなっています。(「壊れた器」という名前で中ボスにもなっていますし、ノスクに捕まった死骸、闘技場の死骸、緑の道での死骸、アビスの外にも結構な個体が逃げ出している。アビスの封印…結構雑だったんですかね。)
さて、白いレディが見るからに木であることを考えると、元々芋虫のウィルムと木のレディの子作りですから、これは異種姦なんですよね。この2匹(単位合ってる?)で子作りしてるのが既に面白いのですが、ここで唱えたいのはこれ雄雌逆転セックスだったんじゃないのって話です。
根拠!
ウィルムの前世?の芋虫の殻は王国のはずれエリアに「脱ぎ捨てられた殻」として表示されます。この殻の中に入ると「王の刻印」が入手出来、主人公は王家の…つまり神の血筋の者だと証明されます。
この「王の刻印」があった場所、
ウィルムの体内の『卵』の中だったじゃないですか。
つまりウィルムには身体構造的に『卵』を作る能力がある…ってコト!?
ウィルムのジェンダーは「He/Male」になってますし白いレディはレディなんでレディなのですが。
これ、つまり彼らが無数の子供を為すための『卵』を提供してたのは雄であるウィルムなんじゃないの?と思うわけです。
更なる根拠!
白いレディに初めて遭遇した時の会話。レディは自らを動けないように縛り付けている理由について、虚無の創造に関わったことを恥じていると語ります。そののちです。
「今でも欲求は存在し、これからも存在し続けるでしょう。
大地に種をばらまき、自らを繁殖させたいという欲求が。」
QED。(ドヤ
レディとウィルムが「研究」に勤しんだという話を聞くと、やっぱり如何にジェンダー頑張っても生殖は雄雌になるよね~と思い込んでかかります。ウィルムとレディのセックスも想像するわけです(私だけですか)(そうですか)。
なのにゲームを進めて詳しく話を聞いてみると、この逆転に直面するようになってるんですね。
さっきまで想像してたセックスと違う。
非常に上手いです。どのくらいの人が気付くのかなとも思うけど。
さて、こうなってくるともう一つ気になるのは、獣者ヘラーですよね。
ウィルムのホロウナイト計画は3名の生贄を必要としました。その1人が獣の統治者ヘラーです。彼女はこの話を受ける見返りに、死ぬ前にウィルム(現虫神)の子種…いえ、『卵』を求めました。
ウィルムが卵を提供する側だとすると、獣者ヘラーも精を提供した側ということになるでしょうか。
娘であるホーネットは獣者ヘラーを「母」と表現します。「卵=母」ならウィルムが母、ですよね?
セックスでの役割や性器の構造とジェンダーは無関係!…と言ってる!?
と言えるんじゃないだろうか。
うん、「オスだったはずなのに卵子だったから実はメスだった」なんて言い方をしないのは、Team Cherry曰く、そんなのはナンセンスだからです。私も思いっきり同意する。
Team Cherryは
こういう(ウィルム×レディとかの)ミスリードからの
(レディ×ウィルムという)逆転、結構得意みたいです。
さっきも老いたムシ(すごい若い)とかやってたしな。
我々のジェンダー観に真っ向から挑戦してるような感じがする。
最後にそんな発見をもう数例ご紹介して締めくくりたいと思います。
3.己のジェンダーバイアスに向き合わされる瞬間 ベスト3
3位 クロースさん
クラウドファンディング高額寄付者お礼キャラのクロースさん。特徴的な雄叫びがチャームポイント。
造反者の長戦では共闘、そして…。っていう激熱展開もありました。恐らくレズビアン匂わせキャラです。
クロースさん出現時男性キャラかなと思いこむんですよね(私だけかも)。
これは恐らく最初に出会う女性キャラであるイゼルダやホーネットが割とフェミニンなデザインをしているから。
「女はヒラヒラ」でデザインしてるのかなと思わせてくるけど意外とそうでもなかった例。
←女はヒラヒラの例
ちなみに、他で言うとチャーム屋のサルブラはトランス匂わせっぽいかな。描写がステレオタイプなのが気になるとこです。また、「ジョニの祝福」のジョニは女性、カタツムリの霊媒師は男性、モス族の夢見の戦士はジェンダー不明…みたいな感じで『思ってたんと違った』をわざとやっていると思います。
Team Cherryの不足は「脱・女はヒラヒラ」と同時に「男もヒラヒラでいいじゃない」をやらなかったところではあります。ヒラヒラの男はいなかった。
2位 芋虫パパ
例のアレ
芋虫クエストを終えて芋虫赤ちゃんを全員救いきると、最初嘆いていた芋虫パパは大層喜んで…。そして一端去ってから戻って来てみれば、芋虫パパは赤ちゃんを全員喰らって膨れた腹で笑い転げています。本作のトラウマ。
と思ったらこれ成長の一環なんですよね多分。クエスト報酬「成虫の哀歌」の説明を見る限り「次の成長段階を迎えた幼虫たちの、感謝の気持ちが込められたチャーム」とありますから…
パパは恐らく自分の身体をさなぎの殻みたいにして…子供たちの犠牲に…?パパ…。(楽しいって言ってるの、多分子供たち?ですね)
けどこれ、なんで最初「喰った!?!?!」と思ってしまうかっていうと、パパだから(ママじゃないから)っていうのはデカいと思います。
ハロウネストの敵キャラには、腹に赤ちゃんを入れたのがいっぱいいます。グラザーママとか、スイツキマームとか、アスビットママとか。腹が破れて子が出てくるのは見慣れた光景なわけです。
加えて、レディ×ウィルムでウィルムが『卵』とか言ったのと同様、
芋虫パパは普通に我々の思う”母親役”を身体上行っていてもおかしくはないのです。
『腹が膨れた生体が死んで子が出る』瞬間、雑魚敵相手に何度も見たのに。”母”体にひげが生えた途端に分からなくなってしまう。
こういう抉り方とても上手ですよね、このゲーム。
1位 主人公がジェンダーレス
ボイドを含む子らはジェンダーレスとされており、その対比としてヘラーとウィルムの子であるホーネットは「性のある子」と説明されます。これはゲームを進めていくと明らかになること。
…だからそれまで勝手に主人公を男だと思い込んでたのは私だけじゃない筈。
そもそも「どうせこれも男主人公のゲームだろう」と思うのは前述の「女はヒラヒラ」のデザインへのバイアス(「主人公はヒラヒラしてないから男」という思い込み)に加え、多くのゲームが男主人公だという経験則もあるでしょう。
ここに強化要素として入ってくるのがブレッタです。イライラ棒のゴール地点で困っている彼女。
ゴールで話しかけた後、主人公が拠点ダートマウスに戻るとブレッタも帰ってきています。
ブレッタは窮地を助けてくれた主人公を「白の救世主」と呼び慕い、恋をして、夢小説まで書いてくれるんですね。
あとホーネットっていうメインヒロインかと思ったら異母妹の女性キャラの存在。この2点に強化されて我々は主人公のことを男だと思い込みます(クソデカ主語)。
「ストーリー上、こういう風に女に囲まれてるんだから当然男だ」
と思ってるんですよね。バイアス~。
でもこの2人、立ち返ってみれば一度だって主人公を「彼(He)」と呼んだことはない。ブレッタの夢小説も、英語版を見ればわかりますが見事に三人称を避けています。このボイド(虚)に勝手に「he」をあてこんだのは私…ヒェ。
ちなみにブレッタ、第二の片思い相手であるゾートを既定の回数倒すと、徐々にゾートのマンスプレインイキリを「物知りでかっこいい」から「みすぼらしい」と思い直すようになり、最後は真実の愛を求めて自ら旅に出ていきます…。
「夢」小説作家だった彼女の「目覚め」のストーリー。フェミニズムチックなコメディになってますね。続編シルクソングでブレッタの補完も来てくれないかなぁ
皆さんも是非Hollow Knightのwokeな夢の世界を探索してみてください。
1500円なので。
1500円なので。
私はもう200時間楽しんでいます。1時間8円以下!!!すごい!!!!
やってくれ。ハマってくれ。
そして私とSilksong待機列に加わってください。
お友達を待っています。待ちすぎて暇でキャラ絵を目トレスして本記事の挿絵にしました。
よろしくお願いします。
Hollow Knightはいいぞ。
以上。