【歌詞解説②】GeG/ Merry Go Round feat. BASI, 唾奇, VIGORMAN, WILYWNKA
「Merry Go Round」歌詞解説の続きなので、お好きなお飲み物を手に取り、ゆるーく読んでもらえると嬉しいです。
わたしはサンミゲル・ライトを。
前回の解説①はこちら
マイクリレー先頭BASIのパートが、20世紀後半のアメリカを代表する作家J. D. サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を取り入れたライム(ギ)になっていることを既に確認した。
「回転木馬、雨、僕ら、音」とくればサリンジャー『ライ麦』のラストシーンだ。
さらに、続く唾奇、VIGORMAN、WILYWNKAのパートも順にみていく。
一人、ニューヨークの夜
曲の冒頭に流れたサビは各パートの前にも毎回流れる。
毎時間同じ数字に時計の針が戻ってくるように。
そして、2度目のサビに続く唾奇のリリックでは、BASIのパートでは僕らだったののが俺一人になっている。
1人きりまたぶらり帰路歩き
無くした物が多いと気付き
今更になって後悔してもまぁ遅い
解説①に続いてサリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』のストーリーに沿って考えると、主人公の少年ホールデンがニューヨークの街を彷徨っていたときのようだ。
ホールデンは通っていた寄宿学校を深夜に抜け、実家のあるニューヨークに一人で電車に乗り向かう。
ニューヨークに着いてからもすぐには実家に帰らずに一人で街をぶらりする。
弟のアリーが亡くなったときのことや、気になるジェーンのことが忘れられず何度も電話しようとするが、実際にジェーンと話すことは叶わない。
落ち着いて1人で考える時間がないと、無くした物の多さには中々気づけないものである。
1人になることで、その不在に気づく=不在のものと一緒になれる、という逆説がある。
仕事の帰り道、「あぁ、あれやるの忘れた…」と思い出す。
「なぜもう少し前に気づかなかったのか」と後悔するけど、今更になって遅いんじゃ、と無意識では思っているのだろうか、家に着くとまた忘れる。
ん、わたしだけ?
キツツキみたいなマラで傷付けたまま
未だ子供のままの俺
ガキみたいに騒ぐ夜の街を抜けて
一人夜にフラれて砕けて
この残りのライフをすり減らしてく
「マラ」とは陰茎の隠語だが、『ライ麦』においてホールデンは一人ニューヨークを彷徨う間に売春婦サニーと会う。
結局、性行為には及ばず部屋でサニーと少し話しただけだったのに、用心棒に力で押さえつけられ、お金を払わされる(しかもぼったくられる)。
他にもホテルのラウンジで酒を注文しても年齢確認されて酒を飲めないし、10代であるために何かと制限を受ける。
(わたしは20代なので、ビール飲んでます)
先ほど触れたジェーン(他の男とデートに行っていた)、売春婦サニー(会話がスムーズにいかない)には既にフラレているようなものだが、ほかにも友達のサリーと行ったデートで彼女を怒らせてしまう。
ホールデンは女の子たちと会話が噛み合わず、うまくデートできず、一人夜にフラレて砕ける。
回転木馬と時間
針は右に回り続けている 0:00分
そんなことを思いながらも
同じような夜を廻る
唾奇のラップでは時計の針が右に回り続けている=時計回りに進んでいる。
しかし、次のVIGORMANでは、歌い手が時計を左回り=反時計回りとして見ている。
時計の針の背中を見て回る MERRY GO ROUND
泣けど喚けど焦っても一日は24hour
淡いLove ぐるぐると回り出す
Wonder landのMERRY GO ROUND
Let’s shall we go around?
雨あられでも風まかせこのVery long life
Let me now Where we go now??
Jet coasterのように速くないだけどTake over
ふつう私たちは時計をその外から見て、針は右回り=時計回りだと認識している。
『ヒューゴの不思議な発明』のヒューゴは、時計台の中に暮らしているから時計の針の背中を見ることができるが、VIGORMANもヒューゴのように反時計に回る時計の針を見ている。
唾奇からVIGORMANにマイクが渡ると、時計は右回りなんだか左回りなんだか分からなくなってしまう。
時間が進んでいるんだか、止まっているんだか、よく分からない。
そういえば、唾奇の針は右に回り続けている 0:00分も「回り続ける」という〈動〉なのか、「0:00分」という時点の〈静〉なのか分からない。
キャッチャー・イン・ザ・メリーゴーランド
ところで、GeGは「またみんなで同じような夜を廻る。そう、まるでメリーゴーランドのようにね」と「Merry Go Round」についてコメントしている(音楽ナタリー、https://natalie.mu/music/news/344152)。
同じ時間を回り続けるのが「Merry Go Round」であり、同じ場所で回り続けるのがメリーゴーランドである。
Merry Go Round/メリーゴーランドも〈動〉と〈静〉の相反する性質を持っているのである。
これまで言及していなかったが、MVの映像も見ておきたい。
MVの始めに登場するBASIは、サビの度に同じ時間を過ごす。
同じ時間を繰り返していると、次に起こることが分かる。
だからBASIは、転ぶはずの人を転ばないように助けることができる。
- 回目のサビでは、その人は段差で落ちて転んでしまう。
- 回目は、その人が段差から落ちたあと、転ばないようにBASIが支える。
- 回目は、BASIが落ちる前に助けるので、その人はなぜ助けられたかも知らないままである。
そういえば、『ライ麦畑でつかまえて』(原題:The Cather in the Rye)の主人公ホールデンは妹のフィービーに将来何になりたいのか問われ、次のように答えていた。
「僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ…ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ」
まさにBASIは「Merry Go Round」のMVにおいて、ホールデンがなりたかった「つかまえ役/キャッチャー」になっているのだ。
Merry Go Round/メリーゴーランドでは、回ることでホールデンの夢を叶えている。
しかも、同じ時間を回っているために虜になって時を縛って/今時計の針すら追い越して、まだ落ちようともしていない人をつかまえるという、BASIが一枚上手をいったつかまえ役/キャッチャーになっている。
時間がおかしくなっていることに気付き、BASIはこのパーティーを仕切ってるGeGに声をかけて消える。
ラストへ向かう
BASI「月ひとつ feat. 空音」の後半、空音はこう言う。
話は曲の冒頭に戻るのさ
そして最後のサビを迎える。
「Merry Go Round」でも、WILYWNKAのラップで『ライ麦』のラストへ向かうシーンに話は戻る。
僕の三歩前に いつも君は居てる
長くなびく後ろ髪に揺られ
手の中を通り抜ける Mid Night
甘いキットカット 渡る赤の信号
淡く揺れる心臓
白い煙みたく
君は何も染まらないんだ
軽く雲にダイブ
『ライ麦』の主人公ホールデンは、学校を飛び出してニューヨークを彷徨った末に街から出ようと決心する。
そこで別れを伝えようと妹フィービーと会うのだが、結局二人であのラストの回転木馬へ向かうことになる。
別れを伝えるとフィービーは兄ホールデンについて行くと言って聞かない。
学校に戻りなよ、というホールデンにフィービーは怒り、兄の目を見ないし、彼が肩に手を置こうとするのも許さない。
さらに、フィービーは車が来てるかなんて気にせずに道路を渡ってしまう。
僕の三歩前を歩く君は、手の中をすり抜け、信号無視して行ってしまうのだ。
次は、ラストシーンの回転木馬に向かうホールデンが、歩きながらこれまでのことを回想しているようだ。
俺は空に咲いたFlower
白のマルボロ それとペンとPhone
走るNightRide 先も知らず駆けるTopSpeed
今日も何か忘れたくて
ベタで踏んだアクセル
何故か飲んで吐いて
泣いて死んでそれもMySelf
どれが本当大切?
人生に無いぜ解説
タバコを吸いまくる高校生ホールデンは、電話をかけまくる。
学校を抜け出したことが親にばれたら、など考えずに彷徨う夜。
バーで酒を飲み、トイレで気を失う。
楽しいことがあってもなくても、辛いことがあってもなくても、私たちは生きている限り毎日同じように朝を迎える。
どれもこれも仕方ねぇのかな。
ピピピピピピピピピピッ
アラームを合図に、全員でサビに戻る。
I wanna be down with you チルな場所へ
PVでは、それまでちらっとしか見えてなかったメリーゴーランドの前で全員が最後のサビを歌う。
(『ライ麦』のラストシーンみたい?雨は降ってないけど。)
解説①に引き続き②でも、アメリカの作家J. D. サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を引用しながらGeGの「Merry Go Round feat. BASI,唾奇,VIGORMAN,WILYWNKA」の歌詞をみてきた。
タイトル「Merry Go Round」そのままに回りまくった曲である。
回るメリーゴーランド、
回る時計の針、
『ライ麦』のラストから中盤、またラストへと回るストーリー/リリック。
さらに、どれもよく分からない回り方をする。
- メリーゴーランドは同じ場所で回る。
- 時計は右回りなんだか、左回りなんだか分からない。
- 同じ夜を繰り返すMV。
- 時間が進んでいるようで止まっている。
- 『ライ麦』は「現在」の主人公が時系列を行ったり来たりさせながら語る小説で、「Merry Go Round」の中の『ライ麦』はラストから始まり、、話は戻りラストに戻ってくる。
さらにご丁寧にも、MVとジャケット写真に登場するメリーゴーランドの回る方向までもがよく分からない。
MVに登場するメリーゴーランドは反時計回り。
一方で、ジャケット写真の背景に描かれたメリーゴーランドは時計回り。
とにかく回るのに、とにかく回し戻され、もうよく分からない。
チルじゃなくなってきた…。
わたしはお酒に酔うと、目が回り、頭が回らなくなります。
いや、それこそがチルでいいのかな(笑)
まわるまわる、と言っているとどうしても頭の中で「まわれ ま〜われ メリゴーラーウンド もう決して止まらぬよ〜うに」が止まらない。
そのまま頭の中で歌い続けているとこんな歌詞だったことを思い出した。
ドシャ降りの午後を待って 街に飛び出そう
心に降る雨に 傘をくれた君と
ひぇ!久保田利伸のメリーゴーランドにも雨降ってる。
おニャン子クラブにも(「雨のメリーゴーランド」)、The ALFEE(「ロマンス・レイン」)にも…。
そういえば、途中からビール空でした。