【歌詞解説①】GeG/Merry Go Round feat. BASI,唾奇, VIGORMAN, WILYWNKA
「Merry Go Round feat. BASI,唾奇,VIGORMAN,WILYWNKA」は、変態紳士クラブのGeG(ジージ)が「愛のままにすきにやる」4人をラッパーに、そしてバンドに韻シストのTAKU、showmoreの井上惇志、Soulflex のFunky Dら迎えてプロデュースした、最高に「チルな場所へ」連れて行ってくれる、そんな曲だ。
2019年8月にリリースされ、YouTubeにアップされたMVは2021年9月時点で1500万回再生を超えている。
2020年11月にはMV1000万回再生を記念し、スタジオ・ライブ映像が公開された(ライブに行きたい)。
メンタル的にはハンモックに寝ながら、瓶ビールを片手に持ちながら、心地よいサウンドにゆったり体をあずけて「Merry Go Round」を聞いていると、ある20世紀アメリカ文学が思い出された。
回転木馬、雨、音
まわる回転木馬と
雨ざらしの僕らの
音にただ黙って揺れてくれる
「回転木馬、雨、僕ら、音」とくれば、第2次世界大戦後のアメリカを代表する作家J. D. サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝訳)だ!
『ライ麦畑でつかまえて』のラストは、主人公のホールデン少年が「バケツをひっくり返したよう」な雨の中屋根の下に隠れることなく「雨ざらし」状態で、妹のフィービーが回転木馬に乗っているのを見つめて幸福を感じている。
ホールデンとフィービーが回転木馬に向かう途中、いつもと同じ歌が流れてた。
そして、回転木馬が回り始めると別の歌「煙が目にしみる」が流れる。
回転木馬のまわりではずっと音が鳴っているのだ。
わたしは瓶ビールをちびちび飲む。
フィービーとホールデン
君を連れ 雲の上
ヘイトはもう忘れてくれ
下界じゃ心も持たないから
君と踊りたい
風の上を転ぶように
ただ音色だけが揺らぎ
月がひとつ トーン落として
誰かがライムを披露してる
そんな安堵に満ちたmood
『ライ麦』に登場する主人公の妹フィービーは自分のことを「フィービー・ウェザーフィールド・コールフィールド」とノートに何度も書く。
そう、妹フィービーは天気の子なのである。
下界じゃ心が持たないから、雲の上に行きたい、分かる。
そして踊りたい気持ち、分かる。
『ライ麦』の主人公ホールデンは自由なダンサーだ、と言ってもいいだろう。
一人でタップダンスに、ラウンジで女の子3人とダンス、そして「風の上を転ぶように」天気の子・妹フィービーとの「月がひとつ トーン落とし」た真夜中のダンス。
BASIのライム(ギ)?
先ほど触れた通り『ライ麦』に登場する回転木馬では「煙が目にしみる」が流れており、それは「とてもジャズっぽい」演奏だとホールデンは語る。
80年代後半、クインシー・ジョーンズがジャズとヒップホップの関係について、ふたつは同じ木から実った果実であると認め、「ビバップとヒップホップは、多くの点で結びついている。インプロヴィゼーション、ビート、ライムといった点で、多くのラッパーがビバップ・アーティストを彷彿とさせる」と語った
引用:https://www.udiscovermusic.jp/stories/blue-note-and-hip-hop-influence
ジャズはヒップホップの形成に大きな影響を与えたと言われている。
ちなみに、「煙が目にしみる」は山下達郎も1993年に英語でカヴァーしてるジャズの定番曲である。
そして、サリンジャーが『ライ麦』に登場させたジャズをBASIはラップに取り入れた、のかもしれない。
いや、BASIを主語にするというよりも「誰かがライムを披露してる」のだから、「誰かが」取り入れたということか?
BASIはアルバム『切愛』のインタビューで収録曲「普通 feat. 鎮座DOPENESS」のテーマについてこう語っている。
そもそも、自分のリリック自体が小説や映画からインスパイアされることはまったくなくて、友達と過ごした時間や、誰かとの会話が歌詞に反映される部分が強いんですね。日常の中の思い出や経験から、自分の表現が生まれてくるというか。だから何気ない、些細なことを紡ぎたいし、「普通」はそれをより明確にしたんです。
BASIは、小説や映画から影響を受けないと言ってる。
ならば、「誰か」との時間や会話から、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』ラストの回転木馬シーンが印象に残り、BASIにとって普通の経験の一つになったのかもしれない。
かっこよ!
ビールがなくなったので、新しい瓶を取ってきます。
次もサンミゲル・ライトで〜
解説②に続く。